生命保険を利用して退職金を積立てる時の注意点

法人で生命保険に加入する場合には、解約返戻金の返戻率に注意しましょう!
その際には、「単純返戻率」と「実質返戻率」の違いを理解しておくことが大切です。
今回は、生命保険の「単純返戻率」と「実質返戻率」の違いについてご説明します。

退職金積立てのための生命保険

法人で加入する生命保険の使い道として、将来の退職金積立てのために生命保険を利用するという方法があります。
法人で社長や役員を被保険者とする生命保険に加入して、法人で保険料を支払い、解約返戻金を積み立てていくことで、将来の退職金の原資を作っていくという方法です。
社長や役員の退職金支払い時に、生命保険を解約することで、それまで積立ててきた解約返戻金が会社に戻ってくるため、そのお金を使って退職金を支払います。

解約返戻金とは?

解約返戻金とは、保険契約者が加入している生命保険を解約したときに、保険契約者に払い戻されるお金のことを言います。
どのくらいの金額の解約返戻金が払い戻されるかは、解約のタイミングや加入している保険の種類によって異なります。
多くの場合、解約返戻金は、実際に払い込みをした保険料の合計額よりも少なくなります。

返戻率とは?

退職金積立てのために生命保険に加入する際に注意が必要になるのが、返戻率です。
返戻率とは、支払った保険料に対して、受け取ることができる解約返戻金の割合のことです。
退職金積立てとして利用するのであれば、対象となる社長や役員が退職するタイミングにおける、この返戻率がある程度高い保険でなければ意味がありません。
例えば、1,000万円の保険料を支払って、500万円の解約返戻金が戻ってくる場合、返戻率は50%です。この返戻率50%の保険を使って退職金を積み立てたところで、返ってこない500万円を損するだけで会社にメリットはありません。
退職金の積み立てのためには、ある程度高い返戻率の生命保険を利用することが重要になります。
そして、生命保険の設計書に記載してある返戻率には、2種類の返戻率があります。
「単純返戻率」と「実質返戻率」です。

単純返戻率とは?

単純返戻率とは、単純に「保険料をいくら払って」「解約返戻金がいくら戻ってくるか」を表したものです。
解約返戻金を支払った保険料の総額で割った割合になります。
この単純返戻率は100%以下になることがほとんどです。

実質返戻率とは?

実質返戻率とは、支払った保険料を損金計上したことにより、少なくなった税金も考慮して計算した返戻率です。
生命保険は、その契約により異なりますが、支払った保険料が、全額損金になるものや半分損金になるものが存在します。
そういった保険を、「生命保険に加入しなかった場合」と比べて、減った税金分を加味して、実質返戻率は計算されます。

実質返戻率の計算式

実質返戻率は以下の計算式により計算されます。

解約返戻金 ÷ [支払保険料 -(損金算入額×実効税率)]

※この場合の実効税率とは、会社の利益に対して、法人税・住民税・事業税をどのくらい負担しているのかを表す比率になります。

実質返戻率を見るときは「実効税率」に注意

実質返戻率は、実効税率によって大きく変わってくることになります。
2018年の実効税率は、29.74%とされています。
しかし、この29.74%がすべての会社が毎年支払っている税金の比率というわけではありません。

中小企業の法人税の税率は、所得が年800万円以下であれば15.0%であるなど、大企業に比べて優遇されています。
それにより、実際に支払っている税金は、29.74%よりももっと低いという中小企業も多く存在します。
そういった場合には、自社の実際の税率よりも高い実効税率により計算した実質返戻率は、まったく意味のない数値になってしまっているのです。
たとえば、「高い実効税率で計算された実質返戻率は100%を超えているが、自社の実際の税率で計算すると100%未満になってしまうという」ということは十分にありえます。

生命保険の設計書を見る時のポイント

退職金の積み立て用の生命保険を検討する際には、以下のポイントにも注意するようにしてください。

①生命保険の設計書の実質返戻率は、実効税率が何%で計算されているのか?
②その実効税率が自社の実際の税率と比べて大きなズレがないか?

会社にとって本当にメリットのある生命保険に加入できるよう、生命保険の設計書は細かい部分までしっかり確認するようにしましょう。

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