様々なケースにおける退職手当の支給について
退職金の支払における様々なケースをみていきましょう。
会社の資金繰りが厳しい!分割支給は可能?
役員の退職にともなう退職金額や支給方法については、会社の株主総会等の決議を経て決定され、通常は一括で支給されます。
ところが、中小企業では資金繰り上多額の退職金を一括で支払うことが困難な場合があります。また、一括で会計処理をすると大きな赤字となってしまいます。
そこで、実際に支払った日の属する事業年度で損金経理することとした場合には、税務上もこれを認めるとされています(法基通9-2-28)
但し、支払年数が長期に及んだり、支払金額が都度決められていては、税務上の利益調整と判断されかねないため、支払時期等は支給額決定時に併せて決議することが望ましいでしょう。
退職金を受け取ったあと、一般の使用人として給与をもらうことはできるの?
代表取締役や取締役だった人が、一度退職し退職金をもらった後も身分を会長や監査役などに変更して引き続き在職することを『分掌変更』といいます。
この分掌変更において退職金が税務上認められるかどうかは下記により判断をします。
① 常勤役員が非常勤役員になったこと。
② 取締役が監査役になったこと。
③ 分掌変更後の報酬が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
上記の①から③までに該当することが要件です。
しかし、その人物が株を5%以上保有しているなど、その法人の経営上主要な地位を占めている場合などは認められません。
一般の使用人であっても、同様です。
過去に個人事業から法人成りをしたけれど、在職期間の計算はどうなるの?
個人事業を引き継いで設立された法人が個人事業当時から引き続き在職する使用人の退職により退職給与を支給した場合において、その退職が法人設立後相当期間の経過後に行われたものであるときは、その支給した退職金を損金とすることができます(法基通9-2-27)
これは、法人の設立後に役員に選任された方についても同様です。
※役員の場合は、使用人から役員昇格に伴う退職金の打切支給が行われていない場合に限ります。
但し、個人事業主であった者とその専従者については認められていません。
以前に別会社で退職金を受け取っているけれど、今回も同じように退職金は受け取れるの?
前年以前4年以内に退職金の支給を受けている退職者に支払う退職金に係る退職所得控除額は、一般の場合と異なり、特別な方法で計算しなければなりません。
しかし、特別な方法で計算する場合とは、当該退職者が前年以前4年内に他の会社から退職手当等の支給を受けており、かつ、今回支給を受ける退職手当等についての勤続期間の一部が前の退職手当等についての勤続期間と重複している場合に限られます。
ですから、勤続期間が重複していないのであれば、現在の会社の勤続期間だけを考慮して、一般の場合と同様に計算して差し支えないということになります。
以前に退職手当等を受給した会社と、勤続期間が重複している場合はどのような計算になるの?
下記の例でご説明しましょう。
1年前に退職した会社甲での退職手当が、
勤続年数12年4ヵ月 退職金540万円
本年に退職した会社乙での退職手当が
勤続年数8年6カ月 退職金460万円
重複する期間7年9カ月
1年前の甲退職の際の勤続年数は13年(1年未満端数切上げ)
退職所得控除額は40万円×13年=520万円となります。
一方、本年の退職手当の基礎となった勤続年数は9年ですが、
重複期間が7年(1年未満切捨て)であるため、
退職所得控除額は40万円×(9年―7年)=80万円となります。
役員退職時において無報酬だけれども、退職金の支給は認められるの?
在任中、日常業務に関与し、他の取締役と同程度に職務執行を行っているにもかかわらず、法人の資金繰りの事情から役員報酬を辞退している場合については、退任時に退職給与を支給することは問題ないと考えられます。
これに対し、法人に対してその職務執行を通じて一切の貢献をしていない場合は税務上損金算入が可能性はないといえます。