最新の賃上げ税制の改正概要と教育訓練費(2024年4月以降開始事業年度分)

本稿では、法人の「中小企業向け」賃上げ税制のみにスポットを当てているため、「中堅企業向け」「全企業向け(大企業向け)」については割愛している点ご留意ください。
また、過年度の賃上げ税制の内容についてはすでに理解があることを前提として記載しており、理解促進のために砕いた表現や私見が混ざっております。

賃上げ税制の改正事項概要

賃上げ税制は数年単位で改正(延長含む)がされており、2024年4月以降開始事業年度から新たな改正事項を考慮する必要があります。
令和6年度の改正事項は主に以下となっております。
①控除枠の繰越規定の追加
②控除率上乗せ規定の一つである「教育訓練費」要件の調整
③新たな控除率上乗せ規定の追加「子育て両立支援(くるみん)」「女性活躍支援(えるぼし)」

繰越規定の概要

賃上げ税制を適用できる税額控除額について、その適用年度で控除しきれなかった金額は、最大5年間の繰り越しが可能となり、
繰越した年度で税額控除を受けることが可能となりました。
繰越した年度で税額控除を受ける場合は、雇用者給与等支給額が前年度より増加していることが要件になりますが、1円でも増加していれば適用可能です。

教育訓練費とは

上乗せ要件の一つに出てくる教育訓練費についてまとめます。
2024年4月以降開始事業年度では以下の要件が上乗せ要件として規定されています。
対前年度比教育訓練費が5%増加 かつ 教育訓練費が適用年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上 を満たすこと。
では、この「教育訓練費」の対象となる取引はどのような取引なのでしょうか。

教育訓練費の定義は、条文上は以下のようになっております。

(租税特別措置法第四十二条の十二の五第5項第七号)
教育訓練費 法人がその国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用で政令で定めるものをいう。
(租税特別措置法施行令第二十七条の十二の五第10項)
法第四十二条の十二の五第五項第七号に規定する政令で定める費用は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める費用とする。
一 法人がその国内雇用者に対して教育、訓練、研修、講習その他これらに類するもの(以下この項において「教育訓練等」という。)を自ら行う場合
次に掲げる費用
イ 当該教育訓練等のために講師又は指導者(当該法人の役員又は使用人である者を除く。)に対して支払う報酬その他の財務省令で定める費用
ロ 当該教育訓練等のために施設、設備その他の資産を賃借する場合におけるその賃借に要する費用その他これに類する財務省令で定める費用
二 法人から委託を受けた他の者(当該法人が外国法人である場合の法人税法第百三十八条第一項第一号に規定する本店等を含む。以下この号及び次号において同じ。)
が当該法人の国内雇用者に対して教育訓練等を行う場合
当該教育訓練等のために当該他の者に対して支払う費用
三 法人がその国内雇用者を他の者が行う教育訓練等に参加させる場合
当該他の者に対して支払う授業料その他の財務省令で定める費用
(租税特別措置法施行規則第二十条の十第5項~第7項)
5 施行令第二十七条の十二の五第十項第一号イに規定する財務省令で定める費用は、同号に規定する教育訓練等(以下この条において「教育訓練等」という。)のために同号イに規定する講師又は
指導者(以下この項において「講師等」という。)に対して支払う報酬、料金、謝金その他これらに類するもの及び講師等の旅費(教育訓練等を行うために要するものに限る。)のうち
当該法人が負担するもの並びに教育訓練等に関する計画又は内容の作成について当該教育訓練等に関する専門的知識を有する者(当該法人の役員(法第四十二条の十二の五第五項第二号
に規定する役員をいう。)又は使用人である者を除く。)に委託している場合の当該専門的知識を有する者に対して支払う委託費その他これに類するものとする。
6 施行令第二十七条の十二の五第十項第一号ロに規定する財務省令で定める費用は、コンテンツ(文字、図形、色彩、音声、動作若しくは映像又はこれらを組み合わせたものをいう。
以下この項において同じ。)の使用料(コンテンツの取得に要する費用に該当するものを除く。)とする。
7 施行令第二十七条の十二の五第十項第三号に規定する財務省令で定める費用は、授業料、受講料、受験手数料その他の同号の他の者が行う教育訓練等に対する対価として支払うものとする。

以上です。
ざっくり解釈しますと、「従業員向けに、職務上必要な能力向上という目的で、外部講師へ払う費用及び学習用ツールの使用料(場所代なども可。ただしいずれも資産を取得・購入する支払は対象外)」
といった解釈でおおよそ問題ないのではないかと思われます。

気を付ける点としては、例えば学習用ツールを購入してしまうケースにおいて少額ですと税務上は「費用処理」されるわけですが、この場合は「賃借料」の性質がないため、適用できないと考えられます。
また、教育訓練費の上乗せ規定の適用の際には、明細書を作成・保存する必要がある点についても留意する必要があります。
明細書については中小企業庁のガイドブックに記載事項の説明もあるため、適用時はそちらを参考に作成を行いましょう。

まとめ

主に教育訓練費に着目して確認を行いました。
何故ここに着目したのかですが、繰越規定ができたことで、税額控除枠を最大限に取らないという税務判断にリスクが高まったと感じたからです。
これまでの賃上げ税制は単年で適用する税制でしたので、多くの場合は税額控除限度の規定(法人税額×20%)により、適用上限が見えており、上乗せ規定を検討する必要性がないということがありました。
しかし、繰越規定ができたことで、検討しないという選択肢がなくなりました。将来予測はできないわけですから。