役員報酬の支給方法と社会保険料
本稿では、役員報酬の支給方法別に社会保険料がどのように計算されるのか確認していきます。
例外的な規定については説明の都合上省略しているため、具体的な検討を行う際には専門家への確認をお願いします。
役員報酬の支給方法
役員報酬の支給方法は基本的には2通りになります。
①月給(原則:定額)
②賞与(事前の届出が必要)
つまり、役員報酬を毎月受け取るのか、それとも、どこかの月で大きく受け取るのかという選択肢があります。
この支給方法の違いによって、税額や社会保険料といった項目に影響があるのかという疑問が生じますが、主に「社会保険料」の計算に影響が出ます。
なお、各種税額については、確定申告や年末調整により年単位での調整が行う仕組みがあるため、基本的に計算に違いは生じません。
社会保険料の上限規定
社会保険料は基本的には社会保険料率を基に算出されるため、月額と賞与の支給額の割り振りを調整しても大きな変動が生じることはありません。
ただし、社会保険料は控除時の「上限」が定められているため、報酬が多い方の場合、社会保険料率より低い金額の徴収になるということが起こり得ます。
「上限」には以下の4つの項目があります。
①月額報酬に係る健康保険料の上限 (健康保険法第四十条)
月給1,355,000円以上の場合、月額保険料は上限額となります。
②月額報酬に係る厚生年金保険料の上限 (厚生年金保険法第二十条、厚生年金保険法の標準報酬月額の等級区分の改定等に関する政令第一条)
月給635,000円以上の場合、月額保険料は上限額となります。
③賞与に係る健康保険料の上限 (健康保険法第四十五条)
年間賞与573万円(累積)以上の場合、保険料は上限額となります。
④賞与に係る厚生年金の上限 (厚生年金保険法第二十四条の四)
月間賞与150万円以上(3回まで)の場合、保険料は上限額となります。
※社会保険では賞与が4回以上の場合は月額報酬計算に含めることとされているため、賞与は3回までとされている。
年俸を月額報酬と賞与に振り分けることで変わる社会保険料
年俸1,200万円のケースでいくつか場合分けをして試算をします。
※令和6年3月~の全国健康保険協会の保険料額表(東京)で40歳以上(介護保険あり)の場合とします。
①月給100万円、賞与なしの場合
月給・・・健康保険料(介護含む):月額56,742円、厚生年金:月額59,475円
合計・・・(56,742+59,475)×12=1,394,604円
②月給75万円、賞与300万円(年2回)の場合 (年俸を16分割して割り振るケース)
月給・・・健康保険料(介護含む):月額43,425円、厚生年金:月額59,475円
賞与・・・健康保険料(介護含む):86,850円×2回、厚生年金:137,250円×2回
合計・・・(43,425+59,475)×12+86,850×2+137,250×2=1,683,000円
③月給50万円、賞与600万円(年1回)の場合
月給・・・健康保険料(介護含む):月額28,950円、厚生年金:月額45,750円
賞与・・・健康保険料(介護含む):331,767円、厚生年金:137,250円
合計・・・(28,950+45,750)×12+331,767+137,250=1,365,417円
④月給25万円、賞与900万円(年1回)の場合
月給・・・健康保険料(介護含む):月額15,054円、厚生年金:月額23,790円
賞与・・・健康保険料(介護含む):331,767円、厚生年金:137,250円
合計・・・(15,054+23,790)×12+331,767+137,250=935,145円
この計算例からわかる通り、給与が高額な場合は、月給の他に賞与支給を行うことで社会保険料の負担増となる場合があります。
逆に、年俸のうち大部分を賞与に振り分けることで、社会保険料の負担減となる場合もあります。
まとめ
月給と賞与の支給額の違いが与える社会保険料への影響について確認を行いました。
年俸で考えた場合、どのような割り振りであったとしても「徴収される金額は同じ」と考えるのが税金計算の場合の考え方ですが、社会保険料についてはそのように均一な計算にはならないということです。
どのような割り振りが最も良いかどうかは、年間支給額の金額次第であるため、最もと良い割り振りは個別のケースごとに異なることが想定されます。そのため、個別に確認の手間が生じますが、役員報酬の支給方法検討の際にはこのような視点も加えてみてはいかがでしょうか。